第29回 天国もハッとする中華ランチ!~ジョージ?ハリスンの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

祝!入学

 春。4月3日、本学の入学式が執り行われた。

入学式
入学式
入学式
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入学式

 新入生の皆さん、ようこそ芸工大へ!いま、ワクワク感と不安な気持ちとがこころの中で入り混じっていることでしょう。とにかくあわてず、落ち着いて、健康第一でゆっくり新生活に慣れてください。休み明けの上級学年のみなさんも同様です。新しい知識に経験、それに、栄養もしっかり摂ってください。心も体も、両方ともとっても大切なのです。
 というわけで今回は、芸工大が誇る美味しい学食とこのコラムがコラボする企画第3弾をお届けします。学食で美味しい中華を食べて、心身ともに元気いっぱいでいきましょう。

中華風味の洋楽レコード

 今回の学食とのコラボ企画のテーマは「中華」だ。なぜか。それは、先日たまたま中古レコード店にて「チャイニーズ?カンフー」という曲のレコードを見つけて、学食の中華とのコラボを思いついたからだ。

「チャイニーズ?カンフー」バンザイ
「チャイニーズ?カンフー」バンザイ

 ところが!である。このバンザイ(Banzaii)というグループによる「チャイニーズ?カンフー」のレコードに針を落として困ってしまった。歌詞が「ウッ!」と「ハッ!」しかないのだ。詩を通じて、いろいろなことをかんがえるのがこのコラムの趣旨なのに、詩がなければこの曲は採用できない。ブルース?リーとディスコが流行していた頃の流行りモノレコードはそれ以上でもそれ以下でもなかった。
 というわけで、学食の中華ありきで選曲することになってしまって、少しの間、頭を抱えた。なかなか中華をテーマにした洋楽などないのである。で、なんとか見つけてきたのが“Breath Away from Heaven”である。敬愛するジョージ?ハリスン(George Harrison)による1987年の作。大ヒットした“Got My Mind Set on You”が収められたアルバムCloud Nineに入っている。で、英国盤のシングル“This Is Love”のB面になっている。

ジョージ?ハリスン “Breath Away from Heaven”英国盤
ジョージ?ハリスン “Breath Away from Heaven”英国盤
 

 3年目に入ったこのコラムについて、ここであらためて説明しておこう。ここで取りあげる曲は、45回転のシングル盤で(ジュークボックスだから)、英語で歌われるものに限る(わたしは英語が専門だから)のがルールだ。なので、ときどき選曲に頭を悩ませるのである。

◆天国から息を奪う
 “Breath away from Heaven”は、マドンナが主演した映画『上海サプライズ』のなかで使われているだけに、中華風味をまとっている。どこか日本っぽくもある。“take one’s breath away”は「思わず息をのむ」という表現。詩の中では、天国をハッとさせる女が登場するのだが、どんなことが歌われているかといえば、こんなふうである。

 In another life
 もうひとつの人生で
 I woke up dreaming with a sigh
 ぼくはため息をつきながら夢から目覚めた
 As the morning light
 朝の光が
 Was painting whispers of a joy
 喜びのささやきを描いていた

 And I was in a candlelit bedroom
 ぼくはろうそくの灯がともる寝室にいて
 Enchanting beauty shimmering magically
 うっとりするような美しさが不思議に輝いていた
 Like an iridescent cloud
 虹の雲が
 Being blown by a westerly wind
 西からの風に吹かれるように

 She can move your soul without you knowing
 彼女は知らず知らずに あなたの魂を揺さぶる
 She can take the breath away from heaven
 彼女は天国をハッとさせる

 And I was captured by her loneliness
 ぼくは彼女の孤独に捕らわれた
 A wounded tiger on a willowy path
 しだれ柳の小径の傷ついた虎のよう
 Like an opalescent moon all alone
 ぽっかり1つだけ浮かぶオパールみたいな月のよう
 In the sky of the foreign land
 知らない土地の空の下

 She can take the breath away from heaven
 彼女は天国をハッとさせる
 She can move your soul without you knowing
 彼女は知らず知らずに あなたの魂を揺さぶる
 She can take the breath away from heaven
 彼女は天国をハッとさせる
 She is like an everlasting blossom
 彼女は永遠の花のよう
 She can take the breath away from heaven
 彼女は天国をハッとさせる

 この曲は、英国人ジョージ?ハリスンによる極東世界の「見聞き再現」楽曲と呼ぶにふさわしい。東洋風味の音楽とともに、詩の中でキーワードとなるのは、“another life(もうひとつの人生)”とか “heaven(天国)”とか“foreign(外国の、異質の)”といったところであろうか。よくわからない世界に次第に魅了されていく感覚が美味く表現された曲だ。そう、知らない世界とは、不安にさせるけれど魅惑的なのだ。まさに新生活を始める新入生にピッタリのテーマだ。

ジョージ?ハリスン “ジャケット裏面
ジャケット裏面

 “Breath Away from Heaven”には、西洋から見た東洋のヘンテコ感の中にも愛情があるし、また、まだ見ぬ世界への憧れもある。そういうものを、英語では“xenophilia”という言葉で表す。“xeno-”は「異質な」、“philia”は「愛好」の意だ。わかったようなふりをして異国のスタイルをすっかり模倣することを、最近では「文化の盗用」といって非難する場面もまあまあ目にするが、憧れと模倣の線引きとは、じつに難しい問題だ。ただし、作品や研究においては「パクり」または盗用は、”plagiarism”つまり剽窃(ひょうせつ)になるので、気をつけなければならない。この言葉を初めて知ったという新入生の皆さんは、特にご注意を。愛をもって異質なものを研究し、再構築/脱構築することのルールやマナーも、大学で身につけていこうではありませんか。

学食と本コラムのコラボ限定メニュー

 さあ、お腹が減ってきた。はい、お待たせしました。ジョージ?ハリスンの“Breath Away from Heaven”へのオマージュから生まれたメニューをご紹介。その名も「天国もハッとする中華ランチ」です。こんなふうに出来上がっています。

ジョージ?ハリスン “「天国もハッとする中華ランチ」
「天国もハッとする中華ランチ」

 世界規模で見ても、学食でこのレベルの美味しさを提供する大学はほとんどないと断言します!「お店でないと味わえない」という言葉がぴったりの四川麻婆豆腐は、まさに「天国がハッとする」美味しさ。試食したのでわかります。本当です。そして、中華スープにご飯。デザートには、麗しい香りが炸裂する手作りの杏仁豆腐が付きます。杏仁豆腐が大好きなわたしは、ぜひこれをバスタブサイズで作ってもらって泳ぎながらずっと食べていたい。

 こちらの「天国もハッとする中華ランチ」は期間限定(4月21日~25日)、11時半から(なくなり次第終了)提供、価格は420円です。

 本学では、2026年度から「食文化デザインコース」も立ち上がります。食も芸術。このことがわかる限定メニューです。お楽しみに。

 さあ、ハッとする新しい出会いを楽しみながら、美味しい任你博を始めましょう!

 それでは、次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。