光陰矢のごとし
山形市内に初雪が降った。いよいよ冬がやってくる。あんなに暑かったのにもう冬だ。“Time flies” とは言ったもの。学食とのコラボ企画メニュー「アメリカン?パイ」が販売されたのは、もう半月も前のこと。食べてくださったみなさま、ありがとうございました。
次の学食とのコラボ企画の構想もすでに練り上がっております。どうぞお楽しみにお待ちください。第3弾メニュー提供はきっと来年の春になりますが、“time flies,” すぐにやってきます。
銀幕のスター
さて、寒くなってどこかへ出掛けるのが億劫に感じるとき、部屋で映画を観るのもよいでしょう。というわけで、これらのタイトルにピンと来る方は、今回取りあげる曲がより一層、心に響くかもしれない。
Gentlemen Prefer Blondes, The Seven Year Itch, River of No Return, Some Like It Hot??? ピンと来ました?
はい、邦題は順に『紳士は金髪がお好き』『七年目の浮気』『帰らざる河』『お熱いのがお好き』というもの。そう、これらはすべてマリリン?モンロー(Marilyn Monroe)が出演している映画のタイトル。「金髪美女」といえばマリリン?モンローというくらい、知らない人はいないであろう。1926年生まれということで、生きていれば今年で98歳。その謎めいた死のせいもあって、ハリウッドの伝説という揺るぎないポジションにいまだに君臨している。
わたしの1Q97
華やかなイメージとは裏腹に、その私生活には暗い影があったと言われるマリリン?モンロー。そんな彼女の素顔の魅力を讃える曲、それがエルトン?ジョン(Elton John)が1973年に発表した“Candle in the Wind”である。「もろくて壊れやすい」という意味の英語の慣用句であるが、もちろんこれはマリリン?モンローを形容しているわけだ。
あれ?これはかの英国の薔薇(England’s Rose)、ダイアナ妃(Diana, Princess of Wales)のための歌ではないの?と思った方もいるかもしれない。そう、ダイアナ妃が不慮の事故で亡くなった1997年、歌詞を書き換えてダイアナ妃追悼ソングとして発表され、当時よくテレビやラジオでこの曲が流れていた。そのため、後発のダイアナ版のほうが有名になってしまっている(往年のファンにはそんなことはないかもしれないが???)。
ダイアナ妃追悼バージョンのほうを聴くと、1997年のあの日を思い出す???。わたしは高校2年生、ちょうど夏休みが終わった直後の日曜日、疲れがたまっていて昼まで寝ていた。そんなとき、ダイアナが亡くなった~!と大騒ぎしている母の声で目が覚めた、という記憶。なにか、世界的な時代の節目にいるのかも、という感覚があった(ちょうどそのひと月前には、香港返還という大きな出来事もあったばかりだったのだ)。そんなわけで、個人的にはオリジナルよりも1997年版のほうに思い入れが強い。
風の中のろうそく
マリリン?モンローとダイアナ妃、本当の素顔は世間に理解されていなかったという点で、2人には共通点がある。“Candle in the Wind” がダイアナ妃を追悼する曲に選ばれ、詩が書き直されたというのは、じつに自然な流れだったのだ。今回は、オリジナル?バージョンの詩を取りあげる。
Goodbye, Norma Jean
さよなら、ノーマ?ジーン
Though I never knew you at all
あなたとめぐりあうことはなかったけれど
You had the grace to hold yourself
あなたには、しっかり自分を持つだけの品格があった
While those around you crawled
あなたのまわりを這いずり回る連中がいてもね
They crawled out of the woodwork
そんな連中は不意に現れてきた
And they whispered into your brain
甘い言葉をささやいて
They set you on the treadmill
あなたをトレッドミルに乗せてこき使った
And they made you change your name
連中はあなたの名前さえ変えさせてしまった
ノーマ?ジーンとはマリリン?モンローの本名だ。第1スタンザの1行目と最終行で名前について触れて、ノーマの素顔が消されたことを巧みに表現している。ちなみに “crawl(ed) out of the woodwork”は「不意にノソノソ這って出てくる」という意。これは、木工品をかじるシロアリがゾロゾロ出てくる様子から生まれた表現。
And it seems to me you lived your life
ぼくには、あなたの生き方は
Like a candle in the wind
まるで風の中のろうそくのようにみえた
Never knowing who to cling to
誰にすがりついていいのかもわからないんだ
When the rain set in
雨が降り始めても
And I would have liked to have known you
ぼくはあなたのことを知っておきたかった
But I was just a kid
けど、ぼくは子どもだった
Your candle burned out long before
あなたの炎は燃え尽きてしまった
Your legend ever did
その伝説の輝きが消えるずっと前に
Loneliness was tough
孤独はつらかった
The toughest role you ever played
それはあなたが演じた役の中でもっともつらい役
Hollywood created a superstar
ハリウッドはスーパースターを作り出したが
And pain was the price you paid
あなたはひきかえに痛みを負った
Even when you died
あなたが亡くなったときでさえ
The press still hounded you
マスコミは追いかけた
All the papers had to say
新聞が書いたのは
Was that Marilyn was found in the nude
マリリンは裸で死んでいたということばかり
Goodbye, Norma Jean
さよなら、ノーマ?ジーン
From the young man in the 22nd row
映画館の22列目で見ていた
Who sees you as something more than sexual
あなたをセクシーな銀幕のヒロインとしてではなく
More than just our Marilyn Monroe
みんなのマリリン?モンローとしてではなく、それ以上の「人」として
映画館の22列目のシートでマリリン?モンローを観ていただけだけれど、その素顔をぼくは理解していたよという、ノーマに聞いてもらいたかった言葉が切ない。もう絶対に伝わらない言葉とは、なんと切ないことか。
素顔のノーマ?ジーンを探しながら、マリリン?モンローの映画をこの冬に観てみるのもいいかもしれない。
ステキな読者
好きでこのコラムを書いている。だが、筆が進まないときもたまにあるものである。でもお今回、この最高にステキなアイテムに救われた。
サブスク全盛のこの任你博の時代に、なんと「かんがえるジュークボックス」で取りあげられた曲を自ら編集して「カセットテープ」に録音して聴いてくれているという学生読者(1年、野木さん)がいたのである!カセットのラベルも自らデザインしているという手の込みよう。さすが芸工大生である。素晴らしい!プレイリストをスマホの中でササッと編集するのとはわけが違う、このアナログ感。おそらく現在40歳以上のかつての少年少女たちは、今このカセットテープにポータブルプレイヤーを見て、全員が涙を流しているに違いない。いろいろなことが胸に去来しているでしょう?
このオリジナル?カセットに次はどんな曲が録音されるのがよいのか、そんなことをかんがえていたら、今回、執筆の意欲がまたわいてきたのである。どうもありがとうございました。
寒くなってきましたので、皆さまお体お気をつけて。
それではまた。次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
BACK NUMBER:
第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
第4回 イノセンスを取り戻せ!~ザ?バーズの巻
第5回 スィート?マリィは不滅の友~フレイミン?グルーヴィーズの巻
第6回 ツンデレな愛をかんがえる~ザ?ビートルズの巻
第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻
第8回(芸工祭報告edition) 浦島と美女をめぐる仮定法~ブレッドの巻
第9回 夢見る人~ニッキー?ホプキンスの巻
第10回 脱構築 DE ビートルズ~ザ?ビートルズ?その2の巻
第11回 年末年始はファンキーに!~イーグルスの巻
第12回 自転車でいこう~クイーンの巻
第13回 卒業の先に~サイモン&ガーファンクルの巻
第14回 船出のとき~ロッド?スチュワートの巻
第15回 恋の縦横無尽~クリストファー?クロスの巻
第16回 田舎へ行こう~キャンド?ヒートの巻
第17回 ハンバーグ?ランチはいかが?~プロコル?ハルムの巻
第18回 宇宙からのメッセージ~デヴィッド?ボウイの巻
第19回 体の知れない電波を操れ!~レッド?ツェッペリンの巻
第20回<臨時増刊号> 西洋と東洋の出会い~ジョン?レノンの巻
第21回<芸工祭直前号> 物質世界を越えてゆく~ロニー?スペクターの巻
第22回 9月のあの日~アース?ウィンド&ファイアーの巻
第23回 アメリカの味~ドン?マクリーンの巻
亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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