第24回 素顔のノーマ、素顔のダイアナ~エルトン?ジョンの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

光陰矢のごとし

 山形市内に初雪が降った。いよいよ冬がやってくる。あんなに暑かったのにもう冬だ。“Time flies” とは言ったもの。学食とのコラボ企画メニュー「アメリカン?パイ」が販売されたのは、もう半月も前のこと。食べてくださったみなさま、ありがとうございました。

学食とのコラボ企画メニュー「アメリカン?パイ」
11月の学食
アメリカの味

 次の学食とのコラボ企画の構想もすでに練り上がっております。どうぞお楽しみにお待ちください。第3弾メニュー提供はきっと来年の春になりますが、“time flies,” すぐにやってきます。

銀幕のスター

 さて、寒くなってどこかへ出掛けるのが億劫に感じるとき、部屋で映画を観るのもよいでしょう。というわけで、これらのタイトルにピンと来る方は、今回取りあげる曲がより一層、心に響くかもしれない。

 Gentlemen Prefer Blondes, The Seven Year Itch, River of No Return, Some Like It Hot??? ピンと来ました?

マリリン?モンローの切手
マリリン?モンローの切手
30年ほど前、アメリカの空港の自販機で見つけて買ったもの

 はい、邦題は順に『紳士は金髪がお好き』『七年目の浮気』『帰らざる河』『お熱いのがお好き』というもの。そう、これらはすべてマリリン?モンロー(Marilyn Monroe)が出演している映画のタイトル。「金髪美女」といえばマリリン?モンローというくらい、知らない人はいないであろう。1926年生まれということで、生きていれば今年で98歳。その謎めいた死のせいもあって、ハリウッドの伝説という揺るぎないポジションにいまだに君臨している。

わたしの1Q97

 華やかなイメージとは裏腹に、その私生活には暗い影があったと言われるマリリン?モンロー。そんな彼女の素顔の魅力を讃える曲、それがエルトン?ジョン(Elton John)が1973年に発表した“Candle in the Wind”である。「もろくて壊れやすい」という意味の英語の慣用句であるが、もちろんこれはマリリン?モンローを形容しているわけだ。

Candle in the Wind 1987年の英国再発盤
Candle in the Wind
1987年の英国再発盤

 あれ?これはかの英国の薔薇(England’s Rose)、ダイアナ妃(Diana, Princess of Wales)のための歌ではないの?と思った方もいるかもしれない。そう、ダイアナ妃が不慮の事故で亡くなった1997年、歌詞を書き換えてダイアナ妃追悼ソングとして発表され、当時よくテレビやラジオでこの曲が流れていた。そのため、後発のダイアナ版のほうが有名になってしまっている(往年のファンにはそんなことはないかもしれないが???)。

Candle in the Wind 1997 ダイアナ妃追悼盤
Candle in the Wind 1997
ダイアナ妃追悼盤

 ダイアナ妃追悼バージョンのほうを聴くと、1997年のあの日を思い出す???。わたしは高校2年生、ちょうど夏休みが終わった直後の日曜日、疲れがたまっていて昼まで寝ていた。そんなとき、ダイアナが亡くなった~!と大騒ぎしている母の声で目が覚めた、という記憶。なにか、世界的な時代の節目にいるのかも、という感覚があった(ちょうどそのひと月前には、香港返還という大きな出来事もあったばかりだったのだ)。そんなわけで、個人的にはオリジナルよりも1997年版のほうに思い入れが強い。

風の中のろうそく

 マリリン?モンローとダイアナ妃、本当の素顔は世間に理解されていなかったという点で、2人には共通点がある。“Candle in the Wind” がダイアナ妃を追悼する曲に選ばれ、詩が書き直されたというのは、じつに自然な流れだったのだ。今回は、オリジナル?バージョンの詩を取りあげる。

 Goodbye, Norma Jean
 さよなら、ノーマ?ジーン
 Though I never knew you at all
 あなたとめぐりあうことはなかったけれど
 You had the grace to hold yourself
 あなたには、しっかり自分を持つだけの品格があった
 While those around you crawled
 あなたのまわりを這いずり回る連中がいてもね
 They crawled out of the woodwork
 そんな連中は不意に現れてきた
 And they whispered into your brain
 甘い言葉をささやいて
 They set you on the treadmill
 あなたをトレッドミルに乗せてこき使った
 And they made you change your name
 連中はあなたの名前さえ変えさせてしまった

 ノーマ?ジーンとはマリリン?モンローの本名だ。第1スタンザの1行目と最終行で名前について触れて、ノーマの素顔が消されたことを巧みに表現している。ちなみに “crawl(ed) out of the woodwork”は「不意にノソノソ這って出てくる」という意。これは、木工品をかじるシロアリがゾロゾロ出てくる様子から生まれた表現。

 And it seems to me you lived your life
 ぼくには、あなたの生き方は
 Like a candle in the wind
 まるで風の中のろうそくのようにみえた
 Never knowing who to cling to
 誰にすがりついていいのかもわからないんだ
 When the rain set in
 雨が降り始めても
 And I would have liked to have known you
 ぼくはあなたのことを知っておきたかった
 But I was just a kid
 けど、ぼくは子どもだった
 Your candle burned out long before
 あなたの炎は燃え尽きてしまった
 Your legend ever did
 その伝説の輝きが消えるずっと前に

 Loneliness was tough
 孤独はつらかった
 The toughest role you ever played
 それはあなたが演じた役の中でもっともつらい役
 Hollywood created a superstar
 ハリウッドはスーパースターを作り出したが
 And pain was the price you paid
 あなたはひきかえに痛みを負った
 Even when you died
 あなたが亡くなったときでさえ
 The press still hounded you
 マスコミは追いかけた
 All the papers had to say
 新聞が書いたのは
 Was that Marilyn was found in the nude
 マリリンは裸で死んでいたということばかり

 Goodbye, Norma Jean
 さよなら、ノーマ?ジーン
 From the young man in the 22nd row
 映画館の22列目で見ていた
 Who sees you as something more than sexual
 あなたをセクシーな銀幕のヒロインとしてではなく
 More than just our Marilyn Monroe
 みんなのマリリン?モンローとしてではなく、それ以上の「人」として

 映画館の22列目のシートでマリリン?モンローを観ていただけだけれど、その素顔をぼくは理解していたよという、ノーマに聞いてもらいたかった言葉が切ない。もう絶対に伝わらない言葉とは、なんと切ないことか。

芸工大にある映画館「サクラダシネマ」の銀幕
芸工大にある映画館「サクラダシネマ」の銀幕

 素顔のノーマ?ジーンを探しながら、マリリン?モンローの映画をこの冬に観てみるのもいいかもしれない。

ステキな読者

 好きでこのコラムを書いている。だが、筆が進まないときもたまにあるものである。でもお今回、この最高にステキなアイテムに救われた。

カセットテープ
カセットテープ!

 サブスク全盛のこの任你博の時代に、なんと「かんがえるジュークボックス」で取りあげられた曲を自ら編集して「カセットテープ」に録音して聴いてくれているという学生読者(1年、野木さん)がいたのである!カセットのラベルも自らデザインしているという手の込みよう。さすが芸工大生である。素晴らしい!プレイリストをスマホの中でササッと編集するのとはわけが違う、このアナログ感。おそらく現在40歳以上のかつての少年少女たちは、今このカセットテープにポータブルプレイヤーを見て、全員が涙を流しているに違いない。いろいろなことが胸に去来しているでしょう?

 このオリジナル?カセットに次はどんな曲が録音されるのがよいのか、そんなことをかんがえていたら、今回、執筆の意欲がまたわいてきたのである。どうもありがとうございました。

 寒くなってきましたので、皆さまお体お気をつけて。

 

 それではまた。次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。