こだわりの先に辿り着いた、グラフィックデザインにとどまらないフィールド/ブランディングデザイナー?卒業生 土屋勇太

インタビュー

情報デザイン学科?グラフィックデザインコース(現?グラフィックデザイン学科)卒業生の土屋勇太(つちや?ゆうた)さん。2013年に独立し、現在は“ブランディングデザイナー”として、グラフィックデザインから店舗のディレクションまで、幅広い分野で活躍しています。今回は、土屋さんがブランディングを務めた割烹『髙崎のおかん』にて、お仕事で大切にしていることや、芸工大だからこそ得られた経験についてお話しいただきました。

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クライアントの魅力を引き出す、
単なる“グラフィックデザイン”ではない“ブランディングデザイン”

――土屋さんは現在、ブランディングデザイナーとしてさまざまなお仕事を手がけられています。

土屋:ポスターやチラシ、パッケージといったグラフィックデザインのお仕事は今もいただいています。そのうえで最近増えているのは、飲食店さんのブランディングですね。

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
お話をお聞きした土屋勇太さん。

――元々はグラフィックデザインを専門にされていたと思うのですが、どのような経緯で店舗のブランディングまで手がけられるようになったのでしょうか

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん

ナチュラルワインと気まぐれキッチン「プルピエ」は、2019年5月オープン。

そもそも、なぜこのときロゴデザインで終わらずに全体のディレクションまで担当したのかというと、ブランディングに興味があったからです。ロゴ単体でご相談をいただくことももちろんありますが、お店と別でデザインしたのでロゴの雰囲気がお店と合っていない……といったことも起こります。私としては、そういったことは避けたかったんです。

「お店のデザイン」「ロゴのデザイン」と別々に捉えるのではなく、コンセプト決めの部分から入って、“デザイン”というものをより広くとらえていただく。そうしたほうがお店の世界観が統一されますし、クライアントにも楽しんでいただけます。

――グラフィックデザインやブランディングデザインの魅力を教えてください

土屋:いろいろな業界と関わることができる、という点が大きな魅力だと思っています。

デザインって、どんな業界でも必要なので。たとえばミュージシャンでも、スポーツでも、みなさん何かしら好きなものがあると思います。デザインの仕事をしていれば、そういった好きなものと関わるチャンスがあるんです。

こんなふうに、デザイナーになると、“なんでもできる”んです。なので、いろいろなことに興味がある人にとって、デザイナーはすごく楽しい仕事だと思います。

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
山形の老舗菓子店「杵屋本店」の新業態の店舗「きねや菓寮」も土屋さんがブランディングを手がけた。

――これまでに手がけられてきたなかで、印象に残っているお仕事はありますか?

土屋:『髙崎のおかん』さんは特に思い入れがあります。というのも、ここは全てを任せてくれたんです。

私としては「思いっきり任せてもらったほうが、面白いものができる」ので。その点、ここのオーナーさんには「できるだけ全部任せるから、ほかにない店を作って!」と言っていただきました。それって、すごいことですよ。ブランディングデザイナーとしてクライアントに信頼していただいている証なので、「最高のお店にするぞ!」という気持ちで進めました。

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
『髙崎のおかん』の店主、髙崎丈さんと。取材前日にも一緒に飲んでいたという深い仲。ちなみに、「おかん」とは燗のことで、熱燗と料理がペアで提供される。

――土屋さんが、お仕事をするうえで大切にしていることを教えてください

土屋:クライアントと、自分の“感覚値”を一緒にすることを大切にしています。たとえば色々なお店を一緒にまわって、「良いお店って、こういうところですよね」「これが良いですよね」という私の感覚を相手にも抱いてもらう、といったイメージです。

デザインの仕事では、多くの場合はまずクライアントに「こんなデザインにしたい」「こんなお店を作りたい」という希望があります。そこに、私がアイディアを出していきます。このとき両者の感覚に乖離があると、良いものを作ることはできません。あいだをとるようなかたちにしても、結局私の感覚からは遠いので。

クライアントも私も納得のいく、最高に良いものを生み出すためには、お互いの感覚値を一緒にすることが大事なんです。

大事なのは、自分が「楽しい」と思うこと

――芸工大在学中から、現在のようなスタイルで働くことを考えていたのでしょうか

土屋:いえ。東京で働くことも、独立も、当時はまったく想定していなかったですね。それまでの人生で、山形から出たことがなかったので。

中山教授と地方のさまざまなプロジェクトを一緒に行っていく上で、任せてもらえるプロジェクトもいくつかあったんですが、そうしたらある日、中山教授に「一人でやってみたら」と言われて。当時はまだ26歳だったのですが、教授の後押しもあって、独立にチャレンジしました。

※グラフィックデザイン学科教授、本学学長。詳しいプロフィールはこちら

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん

――受験生時代は、どのような理由で、芸工大でデザインを学ぶ道を選んだのでしょうか

土屋:中学の時点で「高校を卒業したら、芸工大に入ろう」と決めていました。なぜかというと、そのときから親に「あなたは社会で生きていけないから、銀行員や農業のような、みんながやる仕事には就こうとするな」と言われていて……(笑)

実家が山形県上山市だったので芸工大が比較的近くて。このあたりで、いわゆる“普通の仕事”じゃない未来を選ぶ人が進学するなら、やっぱり芸工大ですよね。それで中学生のときに、親に連れられて卒業制作展を見て、「ここに入ろう」と決めました。グラフィックデザインの道を選んだのは、卒業制作で一番印象に残ったのが情報デザイン学科?グラフィックデザインコース(現?グラフィックデザイン学科)だったからです。

―芸工大で過ごした日々のなかで、今の土屋さんの活動にもつながっていることはありますか?

土屋:シンプルに、学生時代にデザインのことばかり考えて必死に頑張ったので今がある……とは思っています。当時は、同期のレベルがすごく高くて。「そのままやっても、勝てないな」と思ったので、「どうしたら面白いものが作れるか?」を必死に考えていました。たとえば、CDジャケットをデザインする課題でポスターを作ったんです。教授陣に「課題はCDジャケットだよ」と突っ込まれたら、ポスターを折りたたんで「こうしたらCDのパッケージになります」とプレゼンする、みたいな……。

そういう考え方は私自身、今もあると思います。ロゴデザインのご依頼ひとつとっても、自分でもニヤっとしてしまうような遊び心を入れるとか。「言われたとおり、そのままにはしてやらないぞ」という気持ちがあるんです(笑)

――今後の展望についてお聞かせください

土屋:今後は、海外の案件もたくさん手がけていきたいです。ありがたいことに、最近は海外からご依頼をいただくようになったので、そこをもっと広げたいですね。

あとは、“自分の作品を作る”というのもやりたいな、と常々思っています。これまで仕事としては本当になんでもやってきたのですが、クライアントの存在がまったくない、本当に“自分だけの表現”というのは唯一やっていないので。まだ具体的にどういうものかは決まっていないですが、彫刻など立体の作品なんかもいいな、展示してみたいな……と、漠然と考えています。今、芸工大に入り直して表現を勉強したい……と思っているぐらいです(笑)

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん
土屋さんには、本学の卒業制作展のキービジュアルを2021年度から3年間制作していただいた。

――グラフィックデザイン学科へのチャレンジを考えている受験生へ、メッセージをお願いします

土屋:自分の好きなこと、自分のこだわっていることを大切にしてほしいです。デザイナーというのは、自分のこだわりをどこまでも追及できる職業で、そこが何よりも楽しいんですよ。私自身、「デザインという武器が自分にあって、本当によかったな」と思っています。その武器を手に入れるためにも、好きなことを大切にしてほしいですね。

自信がないと、どうしても「正解を出そう」と焦ってしまうと思います。でも、正解を出す必要はないんですよ。周りと自分を比べて、自信を失うこともないんです。好きなことを突き詰めて、楽しんでデザインを学ぶのが一番だと思います。

株式会社豊作工舎 代表 ブランディングデザイナー 土屋勇太さん

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芸工大で学んだデザインの考え方を下地に、グラフィックデザインの枠に収まりきらない活躍を見せる土屋さん。この仕事でやりがいを実感するのは、土屋さんが手がけたことを知らない相手に「あのお店、いいよね」「このデザイン素敵だよね」と言ってもらえるときなのだそう。ご自身の手で道を切り開き、多くの人の心をつかむデザインを生み出すその姿は、芸工大卒業生のロールモデルといえます。

(撮影:永峰拓也、取材:城下透子、入試課?須貝)

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任你博 広報担当
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