CGやゲーム、そして生成AIの普及など「テクノロジーとの関わり方」への注目度が高まっている現代社会。その中で芸工大の映像学科では日々、どのような映像教育に取り組んでいるのでしょう。そこで、CGを専門分野に持つ教員同士であり、さらに東京?仙台?ロンドン?サンフランシスコに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ『WOW』に共に所属する鹿野護学科長と工藤薫准教授にお話を伺いました。
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映像「+α」から生まれるオリジナリティ
――はじめに映像学科で学べることを教えてください
鹿野:映像学科は、映画やアニメ、ゲーム、CGなど、さまざまな映像の作り方を学ぶ学科です。映像の原理を学びつつ、最先端のテクノロジーで映像を作り出す技術を習得します。しかし、映像学科の学びはそれだけではありません。映像学科では「映像で社会をより良くすること」が教育目標。ですから、今社会でどんな映像が求められているかを理解し、映像を作るだけでなく、それをどう活用するか?ということを重視しています。「映像+α」というキーワードを掲げているのはそのためです。工藤先生はまさに演習でαの部分を意識されていますよね?
工藤:そうですね。まずは映像をつくり始める前に、学生たちと地域に出てフィールドワークを行います。そこで得た情報や課題を、映像を使って分かりやすく表現するという取り組みをしています。リサーチと考える時間を半分、制作する時間を半分というバランスで進めています。
鹿野:また、今年から新たに『メディア演習』という授業が始まりました。目標を共有した学生たちが集まって、1年生から3年生までの間にグループで映像をつくるという演習です。つまり目標が一緒であればCGと実写とアニメ、それぞれの専門性のある学生が同じチームで一つの作品をつくれる。CG+アニメ、実写+特撮など、社会が求める多様な表現を実現するためのカリキュラムです。こうした表現のミックスは、映像学科の学びの重要な柱となると考えています。
――どちらかというと専門領域ごとに分かれて学びを進めていくイメージでした
鹿野:もちろん「映画をやりたい」と思っている学生だけが集まって一本つくるというのもあるでしょうし、そうしたグループが主流になることもあるでしょう。でも、例えば特殊効果としてCGを使いたいとなった時、映画を学んでいる学生だけが集まっても成立しないですよね。そこで、「みんなで集まって専門領域を重ねてもいいよ」という演習をやることで、学生たちの表現の選択の幅が広がっていくんじゃないかなと。
一方で、個人で専門領域をじっくり学ぶ演習もあります。ビジュアルデザイン、アニメーション、ムービーデザインの3つから領域を選択し、個人でスキルを磨いていきます。グループ演習と個人演習が常に並行するので、どちらのメリットも学べて組み合わせることができるはずです。また、映像学科は現役のプロフェッショナルの先生方で構成されているので、基礎から実践までさまざまなレベルの学びがあるのも特徴ですね。
――ちなみに現在、CGに対する注目度の高まりというのは感じられますか?
鹿野:注目というよりも、浸透してそれが当たり前になってきたと強く感じます。以前はCGはCG専門の企業が作るものでしたが、最近ではツールや機材が簡単に使えることもあり、さまざまな企業が社内でCGを作り出しています。大手メーカーなどは社内のプレゼンテーションですら3DCGが使われていることもあり、社会的な広がりを実感しますね。実は映像学科でもCGシミュレーターを作って、学科内をゲームのように歩きながら企画を考えたりするんです。おそらく、これから入ってきた学生が卒業する頃には想像もつかないような技術がAI等と結びつき、新しいCGの教育分野をもたらすかもしれませんね。
映像学科のフロアをUEで再現してウロウロ。展示やイベントの検討はこの中でやれそうでは? 寸法を表記したり、観客を配置したり、ゲームエンジンならではの機能も活かせるはず。 #UE5 #任你博 pic.twitter.com/kLkhsQ2rli
— 鹿野護 (@zuga) March 8, 2024
工藤:CGを使った表現は様々な分野から注目を集めています。私が所属するWOWでもその領域が広がっています。これからもその傾向は続くと感じていますね。
――また最近よく耳にするようになった生成AIの影響というのは?
鹿野:CGはテクノロジーの変化ともに、その表現を変化させてきました。生成AIはその一つで、今後CGに大きな影響を与えると思います。AIを使う?使わないの議論ではなく、AIを人間にとってよりよく使うために、どんなデザインが必要なのかを議論する必要があります。
多くの企業が「生成AI+CG」を積極的に取り入れる可能性がある中で、映像学科としては慎重になりながらも、原理を学びAIを使いこなしていくことが重要だと思っています。AIを使って個人の力を拡張しつつ、自分でしか描けないオリジナリティを組み合わせていくことが必要になるはずです。
――CGに関しては具体的にどのような授業や課題に取り組まれていますか?
工藤:昨年は1年生向けに「映像やデザインの知識を伝える1分間のプレゼンテーション映像を作ろう!」というテーマで演習を行いました。ただ映像をつなぐのではなく、モーショングラフィックスを取り入れて分かりやすく、かつ魅力的に伝えるという内容です。2年生には、“日本らしさ”をモーショングラフィックスで表現することをテーマに演習を行いました。伝統的な日本の要素から、現代の社会問題まで、幅広いテーマの作品が出ました。想像以上に多様な作品が出てきて、驚かされることも多いです。
鹿野:「日本には電信柱がいっぱいあるからそれをテーマにする」という発想も出てきていて面白かったですね。
工藤:誰でも手軽にCGを使った映像制作ができる環境が整っていますね。「映像の解像度や比率」などの映像制作に必要な基本的な知識も教えながら、徐々に難易度を上げています。特に初めて映像、CG制作を行う1年生に対しては、「CGは楽しくて、難しくない」というところから始めるのが重要だと思っています。
――ということは「ゼロから始めたい」という高校生でも挑戦しやすい?
工藤:そうですね。
鹿野:未経験者が安心してスタートできる学びのステップを重視しています。最初はパソコンの基本的な使い方を学びつつ、どんどんエキスパートへ成長していけるような演習から始めます。3Dが苦手な学生も大丈夫です。CGはどうしてもパソコンの画面をずっと見ながら、一人で孤独に表現するものと思われがちですが、地域や歴史、文化のような幅広い知識や経験を、CGを使って映像化できることも映像学科の魅力です。工藤先生はこうした演習を担当してくれていますね。
工藤:3年生の演習で山形県遊佐町の「小山崎遺跡(こやまざきいせき)」に学生たちとフィールドワークに行きました。歴史遺産学科の青野先生に同行していただき、専門的なレクチャーを受けたり、調査室で本物の土器や土偶を見学したりしました。学生たちはフィールドワークで学んだことや、そこで感じたインスピレーションをもとに作品を制作しました。
――それは贅沢ですね
工藤:そうですね。ただ、かっこいい、美しい映像を作るのではなく、何かを伝えるためにCGを使って映像を作るということを学生たちに伝えたかったんです。最終的には山形市にあるQ1ギャラリーで作品展を行いました。学生たちは目的を持って映像を作ることの大切さを実感してくれたと思います。現在、彼らは卒業研究の目的を考える段階にいるので、その演習が役立ってくれたらと感じています。鹿野:あと、去年から日産自動車との産学連携も始まりました。日産が求めるクルマと社会の未来像というか、「ワクワクするってどういうこと?」みたいなところをテーマに、日産のデザイナーと学生たちとでディスカッションして一緒に映像をつくっていくという演習に取り組んでいます。そこで学生たちは、「どうして自動車会社がこういう映像を求めているのか?」とか「未来の社会をCGで考えるってどういうこと?」みたいなところを考えながらCGを使っていくことになるので、すごく実践的な学びが展開できています。
企業側からも「学生たちの意見を知る貴重な機会」と捉えていただいていて、たとえば教員や企業の価値観と、若者たちの価値観が必ずしも一致しないこともあるんです。でも、この不一致の発見は、とても大きな気づきにつながります。まさにコミュニケーションから生まれる最大の学びにつながるんです。
楽しい!をきっかけに、改めてその価値に気付く
鹿野:工藤先生が手掛けているプロジェクトに『BAKERU』(=化ける)というものがあるんですけど、人に反応して変化するような「体験型」の映像をCGの中で教えていることもこの学科の大きな特徴だと思います。
工藤:『BAKERU』は、WOWの仲間たちと取り組んだオリジナルのプロジェクトです。東北に古くから伝わる郷土芸能をテーマに、子どもたちでも楽しめる体験型の映像作品を作りました。紙のお面を顔につけると、なまはげやカセ鳥などのキャラクターに変身できるというものです。親子で地域の祭りや郷土芸能について話すきっかけになればという思いで制作しました。
WOW|BAKERU
鹿野:つまり映像を上映するだけではない表現です。“映像と遊ぶ”とか“映像の中に入る”といった表現ですね。“遊び”っていうのは人間の文化的にも非常に重要な概念で、モチベーションや行動をいかに作り出すかという、体験のデザインにつながるんです。映像学科としては、こうした一環でゲームをとらえています。実際、今世界でリリースされるインディゲームの中には本当に素晴らしいものが多い。
工藤:鹿野先生ご自身がゲームをつくっていることもあって、「自分もゲームをつくってみたい」と思う学生が増えていると感じます。実際につくっている先生が近くにいるというのは大きいと思います。
鹿野:ゲームをつくる場合どうしてもプログラムが必要になるんですが、CGの演習ではデザイナー向けのプログラミング方法を学んでもらっています。こうした学びが新しい映像を生み出す原動力にもなりますし、IT領域への進路にもつながることがあるんです。
――ちなみに鹿野先生は芸工大の1期生、工藤先生は6期生でいらっしゃいますが、当時はどのようなことを専門に学んでいらっしゃいましたか?
工藤:私は当時CGコースに所属していました。所属していたゼミの先生が授業で見せてくれたCG作品が面白くて、CGを使った映像表現に魅了されました。当時は今のように簡単にCGが作れる環境ではなかったですが、実験的な表現を楽しんでいたように思います。
鹿野:技術って3~4年で変わってツールが刷新されるので、そこに対応していくのが一番難しいんですよね。私が学生の頃はプログラムでしか映像がつくれないような時代で、1枚の絵が出てくるのにも2~3日かかるみたいな状況でした。
放課後に授業外でも作品をたくさん作って、コンテストに応募していました。そこでグループで作った作品が受賞したことは良い経験になりました。また『第1回 山形国際ドキュメンタリー映画祭』でCM映像やロゴモーションをつくらせていただいて、「CGは地域で活用できるんだ」というのがすごく印象的でしたね。地域の映像をCGでつくるというところは、今も映像学科の伝統として引き継がれているのかなと感じます。
――山形にある芸工大だからこそ可能な映像の学びはありますか?
工藤:地方にこそ、世界に発信できる、まだ誰も知らないような魅力がたくさん眠っていると思います。だからこそ学生には山形にいることを活かしてほしいですし、そこから意義のある作品が生まれると信じています。
鹿野:あとは芸工大ってところで考えると、多様な学科があるのでいろんな先生方にアドバイスを聞けたり、私がやっているCGのチュートリアルにもいろんな学科の学生が参加しているので、そこで生まれる相乗効果というのもすごく面白くて刺激的だなと感じています。それから、昔「山形ビエンナーレ」でつくったゲームの中に、寒河江にある船着観音堂というところをスキャンして入れたことがあるんですけど、その観音堂って今はもうないんですね。そうなると、その映像の中にしか存在しない。つまり文化をアーカイブするという意味も含めて、映像の役割を考え直せる場でもあると思うんです。自己主張だけじゃなくて、社会や地域とつながった映像という考え方の部分ですよね。
――それでは最後に受験生へメッセージをお願いします
工藤:映像学科に入ると、さまざまな映像表現の可能性に触れることができます。まずは大きな夢を持って入学していただきたいです。そして4年後、その夢をそのまま追い続けるのも、新しい目標を見つけるのも良いと思います。映像表現全般に興味のある学生は、ぜひ来て欲しいです。
鹿野:高校生たちの「好きだな」とか「昔からこれ推してる」という感性って、今までの勉強優先の環境では邪魔者扱いされることも多かったですよね。でも、芸工大の映像学科ではそれが主役になります。感性を使って自分のやりたいことが実現できるし、それを自分のためだけじゃなくて、社会や他者のために役立てられる。感性を長所に変換できる場なんです。熱中できるものがあるって人生にとって尊いこと。とにかく4年間熱中してみて、そこから自分の人生を考えてもらえたらと思います。
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教授陣自らもトップクリエイターであるからこそ、社会が今求めている映像のあり方を実感を持って指導できることも大きな強みとなっている映像学科での学び。ただ格好良く美しいだけの作品を目指すのではなく、「何のためにその映像をつくるのか」という目的の部分を理解した上で取り組むことに大きな意義があると感じました。最先端のツールと、山形というローカル。そこに楽しさも加わることでどのようなオリジナリティあふれる作品が生み出されていくのか、とても楽しみです。
(撮影:法人企画広報課 取材:渡辺志織) 鹿野護教授 プロフィール 工藤薫准教授 プロフィール 映像学科の詳細へ任你博 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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