第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

9月23日?24日は芸工祭!

 9月になったというのに、相変わらず暑い日が続いている。とはいえ、さすがに朝夕の空気だけは、秋を感じさせる涼しさをまとっている。

秋のアサガオ
秋のアサガオ

 その朝と夕のひんやりした空気が「後期の授業がまもなく始まりますよ」とおせっかいにも伝えてくれるので、まだまだ夏のあれもこれも十分に楽しみ尽くしていないのに!とわたしは不満と焦りが入り混じった気持ちになりながら、この時期もいじらしくも健気に毎日咲いてくれるアサガオを眺める。

マステのラベルはシングル盤のデザイン
マステのラベルはシングル盤のデザイン

 夏を惜しんだり、焦ったり、こんな同じ気持ちの方がきっとたくさんいると信じて、寒い季節が来る前に、もっと楽しいことをしたいと願う方々、どうぞぜひ芸工祭へお越しください!そして、このコラムのオリジナルマステをCome and get it!

実力派バンドのバッドフィンガー

 「ゲットしに来て!(“Come and get it”)」というのは、ザ?ビートルズの弟分扱いをされてきたバンド、バッドフィンガー(Badfinger)の1969年の曲のタイトルだ。

バッドフィンガー(Badfinger)フランス盤シングル
フランス盤シングル

 この曲は、ポール?マッカートニーがたった20分で作って、そして、バッドフィンガーが3時間で録音して出来上がったそうだ。「自分がデモ演奏でやったまんまコピーして演奏すればヒットするから、君らには失礼かもしれないけど、余計なアレンジとかしないように」とバンドに指示したのだと、ポール本人が回想している。こんな力関係がポールとバッドフィンガーの間にはあったものだから、バッドフィンガーはビートルズの弟バンドと言われたわけだ。しかしながら、バッドフィンガーは曲作りと演奏、どちらもたいへんに実力のあるバンドである。

 さて、この曲では何が歌われているのだろうか。

If you want it, here it is
それが欲しいなら、ここにあるよ
Come and get it
ゲットしに来なよ
Make your mind up fast
さっさと心を決めなよ
If you want it, anytime
それが欲しいなら、いつでも
I can give it
あげるよ
But you better hurry
けれど、急いだ方がいい
‘cause it may not last
いつまでもあるわけじゃないだろうから

 詩の冒頭はこんなふうである。「それ(it)」をゲットしに来て!と、曲では最後まで「それ」が何のことであるか一切明かされないから、それが指し示すものが何かわたしたちにはわからない。詩の中の人々だけがわかりあっていると言う状況だ。だから、聴き手のわたしたちは「それ(it)」が何か、さまざまに解釈する楽しみが与えられる。ここで、聴き手に与えられた自由を最大限に活用し、今回はそれをわたしは「マステ」に置き換える。そうなのだ、なくなっちゃうかもしれないから、ぜひ早めに芸工祭のわたしのブースに来てマステをゲットしていただきたいのだ。

バッドフィンガーに学ぶ”it”と”one”の使い分け

 ここでわたしが述べていることが冗談か本気か、それもまた読者の皆様の自由な解釈に委ねるが、ちなみに、代名詞「それ」が「かんがえるジュークボックス限定マステ」と特定のモノだとわかっているとき、「それ」に当たる単語は”it”である。一方、山積みになっているその限定マステから任意の1つを取り出すとき、「それ1つください」の「それ」は不定代名詞の”one”になる。ややこしいので例文をどうぞ。

【場面 1】
Pete: Hey, “Jukebox Thinking original masking tape” will be on sale soon!
ピート:ねえ「かんがえるジュークボックスオリジナルマステ」がまもなく販売だよ!

Tom: I bet it will go fast.
トム:それ、すぐなくなっちゃうだろうね!

【場面 2】
Joey: Would you like some “Jukebox Thinking original masking tapes?”
ジョーイ:「かんがえるジュークボックスオリジナルマステ」はいかがです?

Mike: Definitely! I’d like to buy one.
マイク:ぜひ!1ついただきます。

 という感じである。ちなみに、ピート、トム、ジョーイ、マイクはバッドフィンガーのメンバーの名前である。そして実は、この”Come and Get It”という曲、映画『マジック?クリスチャン(Magic Christian)』の挿入歌であり、映画の内容からすれば”it”はお金を指していると思われることを補足しておく。

BUY ONE GET ONE FREE禁止法

 不定代名詞”one”にまつわる話をもう1つ。
 海外のスーパーマーケットやホームセンターなどに行くと”Buy One Get One Free”というポップを目にすることがあると思う。「1つ買えば1つタダ」という売り文句だ。これに関して、近年、肥満傾向にある人の割合が増えているという英国で大きなニュースがあった。肥満を助長するような飲食物におけるBuy One Get One Freeを禁止する法律、略してBOGOF(ボゴフ)禁止法、これが2022年4月から施行されたのだそうだ。ついたくさん食べ過ぎてしまう悪の根源として睨まれてしまったBOGOFが消えたのだ。いろんな法律があるものである。

『バッドフィンガー伝記』隠れた名著
大学1年の春に読んだ『バッドフィンガー伝記』
隠れた名著

 「1つ買えば1つタダ」くらい大盤振る舞いしたい気持ちはあるものの、芸工祭では英国同様BOGOFにはせず、こつこつマステを販売いたします。どうかおいでください。さもないと、わたしは自分のマステの山に埋もれる惨めな秋を過ごすことになってしまいます。ポータブルのレコードプレイヤーでシングル盤を鳴らしながら、みなさまをお待ちしています。最後にもう一度、Come and get it!

 それではまた。次の1曲???の前に、9月23日と24日の芸工祭でお会いしましょう。
 Love and Mercy

 

参考文献
Matovina, Dan. Without You – The Tragic Story of Badfinger. 1997 (p.63)

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。