[優秀賞]
込山真生|粉状化した彩色層の? 剥落止めに使用する接着剤の比較? ー接着力と洗浄効果の関係ー
新潟県出身
本研究は、彩色が粉状劣化し、その表面に汚損物質が付着した木彫仏像の修復を想定した実験を行った。特に彩色層の剥落を防ぐための初期作業である「仮止め」の効果に焦点を当てた。木彫仏像の彩色は、主に膠が展色材として用いられる。経年劣化により膠が接着力を失うと、彩色層は剥離?剥落する。特に粉状に劣化した彩色層が汚損している場合、わずかな摩擦で顔料が剥がれやすく、クリーニング作業は困難となる。そのような状況に対し、修復現場では汚れの上から養生紙を介して低濃度の接着剤を塗布する(剥落止め)。この処置は、作業者によって「仮止め」や「仮接着」と呼ばれることがある。
仮止めの手順は対象部分に和紙または化繊紙を当て、上から接着剤を塗布する。その後、塗布面を水で湿らせた脱脂綿で軽く押さえ、剥離箇所を圧着しながら余分な接着剤を取り除く。このとき、顔料の固定とともに毛細管現象によってわずかに表面の汚れが除去される(図1)。仮止めは広く実践されているが、接着力と洗浄効果の関係や、修復対象に与える影響についての研究は少ない。使用する接着剤の種類や濃度は、作業者の経験や感覚に基づいて選ばれている。
そこで本研究は、現在国内で一般的に行われる膠およびふのりを用いた仮止め処置について、処置回数による接着力と洗浄効果を比較、検証した。さらに、ふのりと性質が類似する水溶性合成樹脂であるメチルセルロース(以下、MC)と比較を行った。実験対象には、①牛膠、②牛膠とふのりの混合液、③信越化学メトローズ( 以下、MS)400、④MS1500を選定した。濃度は0.5%、1.0%、2.0%、塗布回数は1回~3回とした。また檜板に胡粉を塗布し、粉状劣化を疑似再現したサンプルを作成した(図2)。接着力は乾燥劣化試験、クロスカット試験、綿棒によるローリング試験の3つから評価した。洗浄効果は不溶性および油性の汚れを疑似的に再現したサンプル(図2)を用い、色差計とマイクロスコープによる観察、測定を通じて評価した。
すべての実験結果から、仮止めにおける接着?洗浄効果の有効性が高い接着剤は、0.5%④MS1500塗布1~2回となった。次点で1.0%③MS400,1.0%2.0%①牛膠(各塗布2回)が該当した。あわせて本研究では、接着力における分子量と粘度の関係、さらに不溶性および油性汚れに対する粘度やpHの影響についても示した。
芸術工学研究科長 深井聡一郎 評
込山真生は木彫仏像修復における粉状劣化に対する汚損物質が付着した彩色層への剝落止め時の仮止め処置に用いる接着剤の効果を比較検証した。その中で粉状劣化した彩色層と木材に対しての接着力、汚損物質に対する洗浄効果を評価基準としている。牛膠やふのりやメチルセルロースなど仏像修復に用いられる接着剤を濃度や塗布回数を変え実験を繰り返しそれぞれの効果を明らかにした。
修復においてよく扱われる膠やふのりは劣化の予測をつけやすいが、タンパク質からカビなどが発生することがある。一方メチルセルロースはカビなどは発生しにくいが、接着力に欠ける。目的や用途によって何を何回塗布することが効果的かデータを残した。
メチルセルロースによる剥落止めはまだ研究データが少なく、今後この研究が修復家や同様の観点から研究を進める後世の研究者たちにとって、有効な資料となることを期待して優秀賞を授与する。
1. 脱脂綿、養生紙に付着した汚れ
2.サンプル(左:粉状化 中央、右:汚損)
3. MC溶液の色差減少値(不溶性の汚れ)