佐藤弘花|漆下地の材料および技法の特性に関する研究 ?中尊寺地の粉の特性解明を中心として?
宮城県出身
中尊寺は岩手県平泉町にある天台宗寺院である。境内にある金色堂は天治元年(1124)に建立され、内陣や須弥壇は螺鈿(らて?ん)や蒔絵(まきえ)などの漆工芸によって装飾されている。
中尊寺金色堂は昭和37年から43年にかけ、創建以来の解体復元修理工事が行われた。その修復のうち漆芸分野では、中尊寺裏山から産する「中尊寺地の粉」が下地材として使用され、厚塗りでも速く固化する特性が報告されたが、その具体的な要因は未解明であった。(図1)
本研究は、中尊寺を中心とした漆下地の特性を明らかにすることを目的とし、現在使用される下地や中尊寺地の粉に性質が類似する火山灰などの比較を通じて検討を行った。(図2)
研究方法として、各下地サンプルの粒子観察、成分分析、粒度などの物理的性質の測定を実施した。その後、下地と漆を混和した手板を作成し、固化速度や作業性、固化後の変化を記録して厚塗り時の扱いやすさを考察した。(図3)
その結果、吸水率と成分が固化に大きく影響することが判明した。吸水率は粒子の形状、粒度分布、シリカ含有量に左右され、高い吸水率の下地は漆を吸収しやすく固化が早まる一方、作業性や固化後の安定性が低下する傾向が見られた。また、硫黄は固化を阻害し、表面硬度にも影響を与えることが分かった。
そして厚塗りでの活用が示唆されたサンプルは山科地の粉、中尊寺地の粉、阿蘇の火山灰であった。山科地の粉は粒度が調整された安定した下地であることが確認され、漆の割合を変化させても作業性が維持された。中尊寺地の粉は多孔質で、粒度分布や成分が山科地の粉に類似していることが扱いやすさの要因と考えられた。また、中尊寺地の粉は漆の含有量を減らした場合に固化が早くなる特性を示した。さらに、阿蘇の火山灰も中尊寺地の粉同様に厚塗り時に素早く固化し、表面変化が少ない特性を示し、実用性が示唆された。
今後、各サンプルに適した漆の条件や、漆下地の硬度、接着力などをさらに検証することで、下地ごとの特性がより詳細に解明されると期待される。これにより、修復作業や現代漆工における下地素材の具体的な活用例を提案することが可能になると考えられる。
1. 中尊寺地の粉の原料となる岩石
2. 手板実験に使用したサンプル
3. 固化速度測定試験の様子