歴史遺産学科Department of Historic Heritage

中村悠河|新潟県域における複式炉の変遷-縄文中期の地域間交流と伝播経路の解明-
新潟県出身
青野友哉ゼミ

 複式炉は、縄文時代中期末葉に東北から北陸地方にかけて盛行した大型の屋内炉で、炉の構造は名前が示すように、複数の炉が一つに合わさったもの(それぞれ土器埋設部、石組部、前庭部と呼称する)が基本形である。「複式炉」の出現は縄文時代中期末葉を象徴する出来事であり、この「複式炉」を抜きにしては中期末葉の時期性を捉えることができない(阿部2008)と言われるほど地域的特色を語る上で重視されている。
 新潟県域の複式炉研究は2000年代前半から進展しているとは言えない状況にある。また新潟県内の複式炉は、下越地方や中越地方に豊富な資料や残存状況が良好な資料が確認されるが、上越地方?佐渡地方はかろうじて集成や検討がされているものの十分とはいえない。
 そのため本稿では、最新の報告状況を踏まえ新潟県域の縄文中期中葉(大木8b式期)から縄文時代後期前葉(南三十稲場式期)までの炉をすべて集成し、得られたデータを数量的分析から新潟県域の炉の変遷や地域的特色について検討していく。また集成により明らかになった、北陸系複式炉の変遷や新潟県域における複式炉の伝播経路、特に東北系複式炉についても検討することで、複式炉を含めた炉研究の進展に寄与していくことを目的とする。
 考察では、「北陸系複式炉」の副炉の形態の変化について述べ、石組炉に埋設土器→扁平石→副炉(小形)→副炉(大形)と変化することを明らかにすることができた。また新出資料である、原山遺跡の炉について、Ⅱ地域の炉形態と比べ、類似していることを示し、「東北系複式炉」だと位置づけた。さらに、原山遺跡SI6(1炉)、SI46の炉形態と炉体土器を検討することで、新潟県域の複式炉の伝播経路を3つのルートに限定することができ、この検討により、新潟県域の複式炉には2つの画期が認められることが分かった。1つは、先行研究でも明らかにされていた(阿部2008)、2期に福島県を中心とする南東北から影響を受け、〔地域Ⅰ〕で前庭部付石組炉が出現することである。第2の画期として、3期?4期に〔地域Ⅱ〕で在地的な祖型的複式炉が出現すると同時に、群馬県域、長野県域からの土器の影響を受けた炉が出現するということである。この研究では、新潟県域だけで検討されてきた複式炉研究が、他地域、特に関東地方との影響を捉える際に重要な見解を明らかにすることができた。

1. 複式炉部分名称図(阿部昭典2008一部改訂)

2. 複式炉分類表

3. 東北系複式炉伝播ルート