文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

奥真菜|中国で制作された木造水月観音菩薩坐像の構造研究 ー科学的調査と模型制作を通してー
青森県出身
宮本晶朗ゼミ

 中国における木彫の仏像彫刻は海外への流出や文化大革命期の破壊などの影響で、その基準となる作品の不在により研究が進んでいない。本研究では、中国で制作されたと考えられる木造水月観音菩薩坐像を研究対象として取り上げ、構造を明らかにするとともに、制作方法の考察をすることを目的とした。
 初めに科学的調査を行った。X線C T撮影により、本像の構造や芯持ち材が用いられていること、接合部に多くの釘が打たれていること、接合部や欠損部が木材とは異なる材質で充填されていることが明らかになった。樹種同定では、ヤナギ科ハコヤナギ属の木材が用いられていることが判明した。
 次に調査結果を元に模型を制作した。模型制作を通しての所感として、小さな部材が多い両脚は分解したまま彫ることが難しかったことから、釘や枘などで材を接合したのちに彫り進められたと考えられる。また、右脚において、右腕があることで作業性が悪かったことから、右脚を彫った後に腕を彫ったあるいは接合したと考えられる。
 以上の調査結果から、本像における制作地、制作年代、制作方法についての考察を行った。
 制作地について、本像以外にも中国の木彫像でヤナギ科ハコヤナギ属と同定された例がある。先行研究で中国では様々な材が用いられたとあり、ヤナギ科の木材においても仏像彫刻に用いられる材であったと推察される。このことから、中国国内で制作された可能性が高いと考えられる。
 制作年代について、本像は水月観音菩薩を表しており、水月観音は北宋から金代にかけて多く作られた。また、本像の来歴によると1910年代に現在の所有者の祖父が譲り受けたとされていることから、少なくとも1910年以前には制作されたと考えられる。このことから、制作年代の上限は北宋(10世紀頃)で下限は1910年以前と推察される。
 制作方法について、木寄せをして荒彫りをした後に各部材を外して彫った方法と木寄せの段階で釘で接合し、彫った方法が考えられた。しかし、木寄せに使用されたと思われる枘や釘の打ち方に規則性がないこと、右脚の接合方法で各部材を直接体幹部に固定しているのが確認できたことから、後者の方法で制作された可能性が高いと考える。
 本研究では、中国で制作された木造水月観音菩薩坐像の構造と樹種を明らかにした。本研究における本像の構造や材質の結果が、中国木彫像の一作例として、今後の研究の一助となれば幸いである。

1. 研究対象のX線C T画像

2. 研究対象の構造図