[最優秀賞]
森田翔稀|いくつかの窓に繋がれた肉
群馬県出身
青山ひろゆきゼミ
ビデオインスタレーション
青山ひろゆき 教授 評
人間社会における実在性の危うさを提起する高度な作品である。彼とはアートプロジェクトや芸術祭への参加など、授業のみにとどまらず多くの時間を共にしてきた。非常に頼もしく信頼できる学生である。本作品に至るまでには、さまざまな試行錯誤があったが、すでに大学2年時からリアルとバーチャルがシームレスになりつつある現代の感覚を絵画やインスタレーションによって試みはじめていた。特に3DCGを用いたことによってその表現は大きく飛躍した。生成AIが話題となり、数年後にはAGIが迫る世の中、それらが人間社会の脅威となるのか未だ不透明で不穏な心境をリアルに示している。つまり、私たちの営みの転換点にあるべき作品を制作したといえる。現代の技術革新は、産業革命で人間の身体性を超えた機械の存在に恐れ、破壊行為がおきた歴史を想起する。実在性は多様化が進み、ボーカロイドからVチューバーへ個人性が強調され、そして画像生成AIによって視覚的な差異が低下し、現実の情報か否か混沌としはじめている。しかし、彼の作品からは、生々しい人間の実在欲求を強く感じる。それは、感情が制御されたバーチャル表現でもなく、誰もが美しいと共感できる最適解を導いたビジュアルでもない。呼吸の乱れや身体の歪さ、交わりなど未来に争うかのように生身の不器用さを感じる。つまり、人間という存在の形骸化はそこにはない。人間の実在は、不安定で弱く矛盾含みの非効率的なところに価値があるのかもしれない。
人間の在り方を多様なメディアで、横断的かつ柔軟に融合させ鋭い思考とダイナミックなスケール感で展開する力強さは、表現者として必ず活躍していく学生であると信じている。