石川真優|アクリル絵具と油絵具の併用作品における亀裂?剥離等の劣化について
宮城県出身
中右恵理子ゼミ
本研究の目的は、絵画制作におけるアクリル絵具と油絵具の併用技法について、アクリル絵具の乾燥時間と劣化の関係性を明らかにすることである。本研究では、文献調査?作品調査?強制劣化試験の3つを通して、劣化について研究した。
アクリル絵具と油絵具の併用技法とは、アクリル絵具で下絵を描き、油絵具を上塗りする絵画技法である。本研究では、この併用技法を用いた絵画作品を想定した強制劣化試験を実施し、劣化の表れ方を観察した。試験で使用した試料は、キャンバスにアクリル絵具またはアクリルガッシュを塗布し、試料ごとに1分(未乾燥)?1時間(表面乾燥)?72時間(完全乾燥)の乾燥時間に達したタイミングで油絵具を塗布することで作成した。試験は2回(試験①②)に分けて実施し、試料への紫外線照射、低湿度環境下?室内環境下での静置、浸水試験を行なった。図1は試験①で実施した紫外線照射(棚上段)と低湿度環境下での静置(下段)である。
試験後はデジタルマイクロスコープを用いて、試料断面を観察した。今回の試験結果から劣化傾向を断定するには至らなかったが、試験後の観察から劣化要因が一部伺えた。
1つ目は、絵具のアクリル樹脂含有量の違いによって劣化にも違いが出る点である。これは浸水試験で顕著に表れていた。アクリルガッシュの試料では乾燥時間の短い試料で絵具層の層間剥離が多く発生した。図2はアクリルガッシュを1分乾燥させた試料である。茶色いアクリル絵具層から、油絵具層が剥離しているのが見てとれる。
しかし、アクリル絵具では全体を通してみると層間剥離の発生は少なく、図3のように支持体からの剥離の方が多く発生していた。この結果から、アクリル樹脂の含有量が劣化の現れ方に影響を及ぼす可能性があると考察した。
2つ目は、下層が未乾燥の試料において「ウェットインウェット」(絵具層が未乾燥の状態で絵具重ねる技法)による塗膜の一体化が推測される結果が見られた点である。2回目の試験結果では、下層が1分乾燥の試料などで亀裂が少ない傾向が見られた。この技法は中途半端な乾燥状態で行うと、上層と下層の乾燥に差が生じ、亀裂などの要因になるとされている。今回は劣化が少なかったため、ウェットインウェットがよる塗膜の一体化が発生したと考察した。