澤田純奈|宮城県及び山形県における鉄道車両の保存と活用に関する調査研究
宮城県出身
佐々木淑美ゼミ
鉄道資料は、私たちの生活になじみのある文化的資料の一つである。身近な存在であるからこそ、多くの民具や生活用品と同様に、生活様式の変化や時間の経過に伴い、鉄道資料は常に更新されてきた。しかし、かつての鉄道資料は、鉄道文化の歴史や技術変遷といった日本の近代産業史の重要な情報を包含している。そこで、JRは、鉄道文化財と名付け、それらの保存活用を行っている。
鉄道文化財は、産業技術の発展のみならず、地域のあゆみを知るうえでも重要な文化財である。中でも鉄道車両は、鉄道資料の中の花形であり活用もしやすい反面、車体が大きく管理が困難になりやすい。鉄道資料に関する調査研究も散見されるが、どの程度劣化しており、利用できる状態であるのか、記述が主観的で不鮮明である。そこで、鉄道文化財としての車両の保存と活用について考えていくにあたり、現在の宮城県と山形県における静態保存車両の保存状況を調べ、保存状態を客観的視点で明確化することを目指し調査を行った。
静態保存とは、実用されなくなった機械類を、操作、運用を必ずしも前提としない状態で保存することを指す。現在の静態保存車両の数や分布、概要を整理するため、国立科学博物館の産業技術史資料情報センターが公開する産業技術史資料データベースをもとに、インターネット上の新しい情報を参考にして照らし合わせた。結果、現在宮城県には13ヶ所27両、山形県には6ヶ所8両、合計17ヶ所33両の静態保存車両が存在することが確認できた。
次に行った現地調査では、車両の現在の状態を観察し、記録および写真撮影を行った。その際、客観性を保った記録を行うため、事前に観察する項目を定め、調査用の雛形を作成した。実物を確認すると、保存活動はされておらず、屋根や車体に穴があき荒廃している状態のもの(図1)、塗装の劣化(図2)、内装の劣化が起こっているもの等、車両は様々な状態であった。
現地調査の結果として、車両の新古にかかわらず、屋内保存の車両の状態が最も良いが、多くはそのような環境を用意することが難しいため、屋根をつけ、雨や雪の影響を軽減するだけでも大きな違いが出ていた。また、継続的なメンテナンスには資金面でも困難があり、現在、愛好家団体によって何とか維持されているものも、永続的な保存を考える場合、今後は地域で継続可能なシステムを作るなどの解決策を考えていく必要がある。