西山奏穂|現代アート作品に用いられている鉛の腐食と今後の保存展示に関する研究
宮城県出身
佐々木淑美ゼミ
徳島県立近代美術館には1969年に菊畑茂久馬氏によって製作された《画家の像》が収蔵されている。この作品は、木材を基材として、鉛、銅、油彩、ラッカーが使用された立体作品である。《画家の像》の鉛部分表面に物質が確認され、美観的な問題だけでな く、保存?展示が困難になるという問題が発生している。一度腐食した鉛は元に戻すことができないため、対策として保存環境の改善を提案し、さらに腐食が進行しないようにするほかない。しかし、保存環境の改善のみでは、問題の根本的な解決には至らない。そこで本研究では、鉛の腐食実験とそれによって発生した表面物質の除去実験を通して、現代アート作品に使用された鉛に生じた腐食生成物への対策について検討し、有効な保存?展示方法を考えた。
腐食実験では、薄めていないものと3%に薄めたものの2種類の酢酸と純水を用いて鉛板を腐食させ、表面状態の変化を記録し、重量の増減を測定した。薄めていない酢酸では表面に亀裂が発生し、濃度3%の酢酸では《画家の像》に発生した白色物質に近しいものが全体を覆い、純水では粒状の白色物質が発生した。表面に発生した白色物質は水に溶けやすく、鉛板全体を覆っていた物質はスポンジで容易に除去することができた。しかし、濃度3%の酢酸で腐食させた鉛板は茶色に変色しており、白色物質のあった箇所に跡が残っていたりした。薄めていない酢酸で雰囲気ばく露腐食を行った鉛板はぬめりのみが洗浄でき、亀裂から剥落が起きることはなかった。
現時点で、表面に物質の発生した鉛板の表面洗浄は、非常に限定的な腐食への対策方法であることが今回の実験から分かった。鉛が使用されている現代アート作品には、保管環境を改善することによって腐食症状を発生させないことと、腐食の進行を抑制することが重要であると考える。腐食の要因や症状は置かれた環境によって異なるため、類似した事例の研究を進め、対策について慎重に検討し実験と検証を行う必要がある。