美術科 工芸コースDepartment of Fine Arts Crafts

[優秀賞]
小田川桃子|草霞む
千葉県出身
松本由衣ゼミ
宝瓶85×125×90㎜、湯冷し55×110×80㎜、湯呑み55×65×60㎜、茶托20×130×95㎜ 陶土、釉薬、顔料

道端に生える草花は小さいながらも様々な種類があり風景として、日々の生活に色を与える。朧げに記憶された情景を構成する植物にはそれぞれに名前があり、そのささやかな存在に気づき?知ることはいつもの景色が昨日よりも鮮やかさを増すきっかけとなる。ありふれたものから素敵だと思うものを見つけていく積み重ねは暮らしを豊かにしていく。お茶を飲むという何気ない時間を彩る茶器。



松本由衣 専任講師 評
作品は宝瓶(ほうひん)、湯冷まし、湯呑み、茶托からなる茶器。宝瓶は玉露などの低温で淹れるお茶に使用する急須の一種です。作者は道端に咲く野花を描き、日常の小さな発見や主張しすぎない美しさを器の中に表現しようとしました。手の中に収まる道具をまさに手の中で試行錯誤しながら造形し、手から離れた窯の中での変形、釉薬の色や土との相性に悩まされながらも、もっとこうしたいという確かな意志のもと真摯に作品と向き合っている姿が印象的でした。茶事は身近に美術品の鑑賞ができる場です、道具でありながらもまるで絵画作品を見ているような気分になるこの器たちは、その草花を通り抜ける風や匂いさえも感じさせます。心を鎮め、くつろぎを感じる茶事に、注ぐ湯の音、のぼる湯気と香りを演出するおもてなしの心をひとつの形として表現することができたのではないでしょうか。一旦は陶芸の世界を離れますが、新たな世界で彼女が見た景色をまたいつかの作品に見てみたいと期待しています。?