文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

でん粉系接着剤の配合による違い
舘沙織
富山県出身 
杉山恵助ゼミ

 装潢文化財の修復や表装に使用されている小麦澱粉糊は、授業でも自分たちで小麦澱粉糊を手炊きして使用しているが、表具師や内装業の方々にお話を伺うと、自分たちで手炊きせず市販の煮糊を使用しているとのことだった。地元、富山のヤヨイ化学工業が販売している内装用接着剤の安全データシートを拝見すると異なる二種類の配合比率を変えながら混合し多くの種類の内装用接着剤があることに気が付いた。また表装用接着剤の成分について調べる中、内装用接着剤にも同様な成分が含まれた商品が販売されていることが分かった。内装用接着剤の配合の比率を調べることは、表装用接着剤を知り、今後の研究に役立つと考えこれを研究目的とし、長く壁に張り付いていられるような強い接着力、リフォームや建て替えの際に壁紙が剥がしやすいか、糊を塗布し貼るまでの持続性(乾きにくさ)を、実験を通して確かめることとする。

 聞き取り調査では、ヤヨイ化学工業へ内装や内装用接着剤についてお話を伺った。本研究のなかで一番気になっていたでん粉と酢酸ビニル混ぜる理由とメリットは、長く壁に張り付いていられるようにするためにでん粉の接着力を補強させる目的で混合しているとのことだった。

 ヤヨイ化学工業では13種類の内装用接着剤があり、内装用接着剤は主にでん粉と酢酸ビニル系接着剤が混ぜられ、それぞれ配合の比率を変えて販売されている。販売されている内装用接着剤を再現し、澱粉糊と酢酸ビニルの混合比率の違いを比較するために、二種類の接着剤の混合比率を変えサンプルを六種類用意した。

 貼り付け剥がし実験では、石膏ボードと壁紙を用意し、壁紙に糊を塗布し完全に乾燥後、剥がすことで接着力を確認した。時間測定では、壁紙を施工する手順の中で、壁紙に塗布された糊の水分がなじむまでの時間をオープンタイムと呼び、オープンタイム以上の時間を置いても接着力が残るのか確認した。貼り付け剥がし実験では、石膏ボードに壁紙の裏打ち紙が残るものが多かったが、少量でもボンドを混ぜたサンプルを使用したものは、石膏ボードの黄色い紙が壁紙と一緒に剥がれる結果となった。少量でもボンドを混ぜることで、新糊単体に比べて強い接着力があることが考えられる。時間測定では、オープンタイム以上の時間を置いても接着力はあり、施工することは可能だが、オープンタイム以内に作業を行うことが望ましいと考える。

 まとめとして、酢酸ビニルの配合比率の違いによって、長く壁に張り付いていられるような強い接着力を求める内装用接着剤と後から剥がすことを求められる表装用接着剤では、接着力に差があると考えられる。