美術科 日本画コースDepartment of Fine Arts Japanese Painting

[優秀賞]
安藤沙彩香|返礼に讃美歌
末永敏明ゼミ
1820×4345㎜ 土佐麻紙、岩絵具、胡粉、パール粉、金泥、雲母、焼錫、洋箔

自然に抗わず忙しさに縛られない世界は、私達を心豊かにするのではないでしょうか。然し、今日の現代社会では、太陽が上り沈む宇宙のサイクルに反して活動する環境が展開されています。トーテムポールの最上部に刻まれるサンダーバードは、自然との共鳴を促す憧れの存在なのです。あの世とこの世の境に立てられるトーテムポールを、空間を仕切る襖に置き換えて再構築し、自然の豊さや怖さと共存して生きていくという日本におけるアニミズムを新たに提示しました。


末永敏明 教授 評
生と死を行き交う聖なる存在のシンボルとして鳶を描くことで、新たなアニミズムの原点を視覚的に再構築する意欲作である。
大きなその翼は自然界を凌駕する存在の偉大さを、そして飛翔する高さを精神の深さに見立てることができる。上昇したり下降したりする動的現象を、鳥は気流を利用して自ら羽ばたく。生じる空気の動きを視覚的に琳派の装飾性を用いて、見えざるものを見える化している。翼のシルエットの中の光景は、風と水と土からなる豊かな自然の恵みへの賛美に他ならない。リアルな鳶の描写に比して、シルエットの中の描写は、シュールリアリスムの手法が思い起こされる。現実と幻想、あちらとこちらの対比する要素を現実の向こう側へと誘う。また襖という空間を可動させる技法を用いることの自由さと、しっかり熟考された豊かなイメージの表現が融合されて日本美術の特質を活かしている。