美術科 日本画コースDepartment of Fine Arts Japanese Painting

[優秀賞]
松尾昌樹|Lines -自ずと反響する事象-
東京都出身
金子朋樹ゼミ
4000×3000×70mm 和紙、墨、顔料

自然の事象が持つ一つの特性として、ものの集積に着目している。
方向と境界を生み出す線「Lines」は、一本一本の線から成る。それは、意図してしまった線と、自ずと引かれる線がせめぎ合う意識の集積のようであり、また単なる物質どうしのせめぎ合いでもある。そして、まさしくそれらが反響し合った塊だ。
単なる物質の集積や移ろい、線の痕跡に、感覚が刺激されるような体験との遭遇を生み出すことは可能だろうか。


金子朋樹 准教授 評
松尾君は、フィールドワークを通して得た眼前の自然事象を、一貫して「線」のみで表現することを追究してきた。無数の線は彼自身の思考によって多様な共通項として抽出され、体感を根底に据えて一本ずつ積層されていく。それらは制約や規則を受け入れる一方で、普遍的なるものを最大公約数的に見出す行為とも言えようか。墨と厳選された顔料の表現はまた、抽象化された山水画のようでもある。
『ラインズ 線の文化史』の著者ティム?インゴルドは、著書の中であらゆる場所にラインが存在することを示唆している。歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、書くこと、描くこと。これらは何かのラインに沿って進行することでもあると。
無尽のライン=線に取り囲まれる私たちの世界。画面上に再構築された線の集積あるいは痕跡は、コントロールされた強弱と疎密によってシナジーとハレーション、そして余韻を生み出す。同時に、私たち観る側へ“不可視の線世界”を誘なう。
それぞれの線状のものがたり(ナラティヴ)は、まさに今、此処で始まろうとしているのだ。