[最優秀賞]
添田賢刀|煙を吐く鏡
福島県出身
青山ひろゆきゼミ
青山ひろゆき 教授 評
入学当初から緻密で説得力をともなった絵画を制作してきた。対外的なコンペディションにおいてもグランプリを受賞するなどアーティストとしての活躍がはじまっている。卒業制作においては、新たな試みに挑んだ。
制作におけるステートメントの高まりは早くから始まり、古典や神話を紐解き自らの言葉を絵画へと導き昇華させてきた。本作において制作の動機としたのが古代メキシコ神「テスタトリポカ」であった。昨年の直木賞受賞の佐藤究による小説で話題となっていたキーワードだが、それとは違った解釈でビジュアル化を成している。世界の創生に関わる神でありなが、衝突によって変化を与える存在とされるため、道徳的な観点から悪とされている。しかし、道徳とは、不安定で不透明とも云える。実際、息の詰まるような現在の状況を経験し人間社会のルールは大きく変化している。今を生きる現代の感覚と古代神話を交差させることで現れてくる世界を絵画化する挑戦でもあった。
絵具に託す生々しい抽象的な筆致は暴力性を想起させ、緻密に描きこまれた現実との同居によって醸し出す混沌とした表層からは、思考のスパイラルを巧みに絵画へインストールする豊かな表現力を感じる。