文芸学科Department of Literary Arts

死んでも推します!
小松結衣
宮城県出身 
トミヤマユキコゼミ

<本文より抜粋>
午前零時。切れかかった街灯の明かりが、不規則な点滅を繰り返している。昼間は騒がしい公園も、この時刻には静寂が立ち込める。近所の保育所から漏れる非常口の緑が不気味に輝いていた。山崎奏は周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、バッグから箱を取り出した。箱は飾りのない質素な物で、上面蓋が開く仕組みだ。山崎が蓋を開けると中には一枚の写真と、数本の黒髪。写真を見て涙を滲ませるが、息を吐き出すことで泣くのを堪える。次に、山崎は砂場に向かった。砂場には子どもが忘れていったプラスチック製のスコップが、ぽつんと落ちていた。スコップを拾い、今度は公園の中央に向かう。そこで穴を掘り始める。マスクの下で篭る呼吸。足首が隠れる程度の深さまで掘れたことを確認すると、穴の中に箱を入れた。箱が見えなくなるまで、土を被せる。次の工程に移る。埋めた場所を中心に、木の枝で幾何学的な模様を描いていく。山羊の角、子兎の瞳……。一心不乱に地面を削る山崎の姿は、まるで何かに憑りつかれたようだ。そもそも公園は、人が住めないような曰く付きの場所に作られることが多い。諸説はあるが、ここで“なにか”が起こっても不思議ではない。しばらくして、山崎はスコップを地面に突き刺した。俯瞰し、ようやく一息吐く。――こんなものかな。箱が埋まっている場所に対して、山崎は目を瞑り、手を合わせた。脳内でただ一点を唱える。想いが可視可できたなら、彼女の願いは岩すらも貫いていただろう。それほど強く、ただ只管に念を込めた。途端に深夜の公園に漂っていた空気が張りつめる。風の音すら聞こえない。葉が擦れる音さえない。沈黙が公園の中央に立ち尽くす山崎を見ている。少しでも身動ぎをすれば“なにか”が起こりそうな緊張感の中、山崎は目を開いた。目を閉じる前と何も変わらない光景に、山崎は肩を落とす。何かを期待していたわけではないため、失望よりも納得が勝った。山崎が公園を後にしようと踵を返す。山崎は足を止め、周囲の音に耳を傾ける。見られている気がする。背後から。心なしか喉を鳴らすような笑いも聞こえた。振り返る。誰もいない。景色も先ほどと変わっていない。考えすぎか、と山崎が安堵に肩を落とした。その時、ふと地面に視線がいった。目に入ったという方が正しいだろうか。山崎は「ひっ」と声を漏らし、尻もちをついた。