[最優秀賞]
伊藤百香|半径5m、手の届く距離でいいから救いたい。考え続けることをあきらめない、これが私たちの使命!
宮城県出身
三瀬夏之介ゼミ
2500×7200×30mm 岩絵の具、水干絵の具、アクリル絵の具、墨、クレヨン、ペン
正義と悪について書いた。どんな相手だろうと愛する者や大切にしていることがある。立場が違うからみんな争うし苦しい。分かり合えない。でも歩み寄る姿勢、分かろうとする気持ち、一緒に考えて悩んで歩んでいくことはできるのではないか。
明けない夜があったっていいから絶望も一緒に連れてこれからも生きていこう。この絵は現代の宗教画として人間の強さと弱さを表現し誰かの心を救える絵にしたいと思った。
三瀬 夏之介 教授 評
伊藤さんから最初に卒制イメージ図を見せてもらったのはちょうど一年前のこと。こども芸術大学に出入りしていた彼女は、仲良くなっていた子供たちと一緒に「生きる喜び」をテーマとした絵本を作る予定でいた。会期中には大きな絵の前にみんなが集まれる広場をつくり、そこでは絵を前に語り合う人たちがいたり、読み聞かせなどが行われるなどあたたかな場所としてエスキースされていた。それからコロナ禍により世界はあっという間に一変し、子供たちと密接な協働をしながら作り上げるという彼女のプランは実現不可能なものとなってしまった。卒業制作を自分一人のものとして引き受けてから、彼女の絵は二転三転という言葉では追いつけないほど、のたうち回り大きな変化をとげた。こちらをまっすぐ見つめてくる無数の蝶は希望の象徴か、無垢ゆえの匿名的な暴力か。今あなたが見ている絵の奥底には彼女の怒り、後悔、喜び、祈りが塗り込められていて、それはそのまま世界の自画像となっている。